死亡事故の場合、本来生きていれば得られたはずの利益が失われたことに対する逸失利益の損害賠償請求が可能になります。今回は死亡事故の逸失利益の損害賠償算定について解説します。
逸失利益の計算式
逸失利益は、死亡事故の場合、生きていれば得られたはずの収入から生きていれば使っていただろう支出(生活費)を除いた金額が逸失利益として損害賠償請求することができます。
逸失利益 = 年収 × (1 - 生活費控除率) × 就労可能年数のライプニッツ係数
で計算されます。
生活費控除率
生きていれば得られていた年収を計算するときに、生きていれば使っていたはずの生活費を控除しないのは理論的におかしいので、あくまでも利益を算出するために生きていれば得られていた年収から生活費相当分を控除するのです。
個別に生活費を算出することはできないため「生活費控除率」という指標が用いられます。
- 一家の支柱:30%~40% → 判例では30%が多い
- 女子(女児・主婦含む):30%~40% → 判例では30%~40%の範囲に収まる
- 男子単身者(男児含む):50% → 判例では50%を下回るケースもある
ライプニッツ係数
逸失利益では、将来得られていた収入を現時点で損害賠償という形で受け取るため、中間利息を控除する必要があります。
その中間利息控除を簡単に計算できる係数化したものがライプニッツ係数です。
就労可能年数
就労可能年数は、原則として67歳までとされていて、未就労の幼児や小学生など18歳未満の場合は、18歳~67歳までの49年間が就労可能年数ということになります。
大学生、短大生、大学進学、短大進学などの場合は、大学卒業後の年齢から67歳までの期間がが就労可能年数ということになります。
68歳以上の収入を得ていた場合には、簡易生命表による平均余命の2分の1を就労可能年数として採用します。
例えば
年収(税込)600万円、37歳のサラリーマンの死亡事故の場合
扶養家族:妻、子供2人
生活費控除率:30%(一家の支柱)
ライプニッツ係数:15.372(就労可能年数 67歳 - 37歳 = 30歳)
逸失利益 = 600万円 × (1 - 0.3) × 15.372 = 6456万2400円
という計算になるのです。
逸失利益の計算に必要な収入算出
自身の収入額を証明できない場合は厚生労働省作成の賃金センサスの全年齢平均給与額が基準となります。
有職者(働いている人)
事故前1年間の収入額と後遺障害確定時の年齢に対応する年齢別の平均給与額(年収換算)のいずれか高い額を収入額とする
事故前1年間の収入額を立証できる35歳未満の人
事故前1年間の収入額 or 全年齢平均給与額の年相当額 or 年齢別平均給与額の年相当額
の高い額
事故前1年間の収入額を立証できない35歳未満の人
全年齢平均給与額の年相当額 or 年齢別平均給与額の年相当額
の高い額
事故前1年間の収入額を立証できない35歳以上の人
年齢別平均給与額の年相当額
幼児・学生・主婦
全年齢平均給与額の年相当額
※ただし、58歳以上の人で年齢別平均給与額の年相当額が全年齢平均給与額の年相当額を下回る場合は、年齢別平均給与額の年相当額
その他働く意思と能力を有する人
年齢別平均給与額の年相当額
※ただし、全年齢平均給与額の年相当額が上限
逸失利益の計算で収入を確定させるための基準
サラリーマンなどの給与所得者
- 給与明細
- 源泉徴収票
※手当や賞与は含まれます。
自営業者・個人事業主
- 納税証明書
※収入が納税証明書と異なる場合は、領収書や帳簿で証明する必要があります。
主婦
- 賃金センサスの女子労働者の全年齢平均給与額が基準
※兼業主婦の場合は、実収入と賃金センサスの女子労働者の全年齢平均給与額の高い方が採用されます。
幼児・未就労の学生、失業者
- 賃金センサスの男女別全年齢平均給与額が基準
年金受給者の場合の死亡事故の逸失利益
年金も将来得られたはずの収入であるため、年金受給者の場合は年金額も含めて、逸失利益の算定をします。
(年収 - 本人の生活費) × 死亡時年齢に対応するライプニッツ係数
+
(年金額 - 本人の生活費) × (死亡時の年齢の平均余命のライプニッツ係数 - 死亡時年齢に対応するライプニッツ係数)
年間収入額の算定基準(自賠責保険基準)
有職者
年金と事故直前1年間の収入を合算した金額 or 年齢別平均給与額
の高い額
幼児・学生・家事従事者
年金 or 全年齢別平均給与額
の高い額
※58歳以上で年齢別平均給与額が全年齢別平均給与額をした下回る場合は
年金 or 年齢別平均給与額
の高い額
その他働く意思と能力を有するもの
年金 or 年齢別平均給与額
の高い額
※年齢別平均給与額が全年齢別平均給与額を上回る場合は、全年齢別平均給与額とも比較する